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密室の恋 7

 ―――結婚!?

 ……何でそうなっちゃうわけ?
 わけわからずしばらくPCの前で固まって。
 しげしげと、自分の書いた紹介文を見つめる。
 ……。もしかして。
 『専属でお料理作ってます』=『結婚してる』って意味に受け取られるの?
 え――……。驚くよソレ。
 さらに固まること数分。
 ―――これはまず誤解を解かねば。
 そう思い立ち、レスをしようとキーボードを触る。
 けど、
 ―――あ、ダメダメ、携帯からしなくちゃ。
 と気付き、あたふた携帯を出していじる。
 ていうか、よく考えたらPC起動させなくてもよかったんじゃないの。こんな帰り際に。
 気持ちだけ焦って文章がまとまらない。
「市川くん。まだいるのか?」
 ドキッ。
 ――いけないっ。
 咄嗟に画面を閉じる私。携帯をスカートのポケットに突っ込んで。
「市川くん」
 ドアが開いて、会長が中に入ってきた。
「は、はいっ」
「まだいたのか。私ももう出るから帰り支度をしなさい」
「はい。すみません」
 会長はPCなんて見向きもせずにまたドアの向うに消えた。
 結婚なんて書かれたもんだから余計にドギマギしちゃったじゃない。私の存在なんて無視されてるのに……。いつも仕事に集中してて私がドア開けて帰ったかどうかも気付いてない。
 私は急いで片して会長と一緒に部屋を出た。歩いてると、エレベーターから出てきた秘書の人がこっちに気付いた。
「会長。お車の用意が出来てます」
 室長じゃないけどどことなくおそるおそるっていう感じの喋り方だった。
「ん」
「お出かけですか、会長」
 何気に私は尋ねる。
「ああ」
「これから?」
「会食だ。……殆ど毎晩な」
 と彼は苦笑して、私は秘書室のある下の階で一旦エレベーターを降りた。


 毎晩会食って……。
 大変なんだな――。
 知らなかった。いつも先に帰されてたから。
 またぼ―っとなりかける私。

 ―――あ、それよりもレスしなきゃ!

 私は新宿駅でまた携帯を取り出した。
 携帯カキコってこういうとき便利かもしれない。通勤時間がつぶせる。立って電車に揺られながら私は文章を考えた。

『こんにちは。みなみんさん。コメントありがとうございます。あのなんか誤解を招いちゃったみたいなので訂正しますね。私はとあるvip様のオフィスでお料理をお出しするオシゴトをしております。だから新婚さんじゃないですよ――。ごめんなさい。vip様はちょっとおじさんですが、超リッチで超カッコいいです。密かに眺めては楽しんでおります。ラッキ―――』

 頭をひねった割にとっても稚拙な文章だが。ハズ……。でもまあいいや、と送信した。丁度電車を降りる頃だったし。
 さぁて、次のメニューは何にしよっかな〜。そんな想像しながらまっすぐ家路を急ぐ。
 家に着いて、シャワー浴びてご飯済ませて一段落して何気なく携帯でブログにつなぐと、またコメントが入っていた。
 みなみんさんからだ。

『こんばんは〜。みなみんです。ごめんなさい、勝手に勘違いして。えーっと実は私、最近結婚が決まって、カレシの部屋に住んでるんですが、カレシ自営なのでおひるに時々帰ってくるんです。で最近、お前の作った昼飯食べたい、って言い出して。。。でも私料理がすっごくダメなんです。今日もカレシお昼に帰ってきたんですが出来合いの惣菜お皿に出してごまかしちゃいました。ダメですよね。。反省。。。してるんだけど私料理の本とか読むのも苦手で。まずいの作って嫌われたらどうしようって。最近すごいブルーです。kofiさんの生春巻き美味しそう。。。vip様は今日もお食べになりましたか? 素敵な方なんですね。うっとり・・』

 って長々と。
 しかもこんなに早く書き込みするなんて。
 この人カレシの部屋でネットつなぎっぱなしなのかな。PCにはりついてるの? ある意味羨ましい状況だ。
 ―――これ書いてるってことは今カレシは部屋にいないんだろうな。
 色んな想像してしまう私。
 そしてまたお返しの文章を考える。

『えっと、食べてもらえました。お昼は手毬寿司、デザートはスフレフロマージュでした。超簡単ですよ。画像は後ほどアップします』

 送ると、30分もしないうちに書き込みがされている。

『そうですか。いいなー。うらやましいです。あ、すみません、なんかチャットみたいになっちゃいましたね。今私部屋に1人でいるんです。ていうかカレシ夜は殆ど外食というか接待なんで、この時間一緒にいることはまずないんです。朝も食べずに出て行くし。だからお昼の時間を大切にしたいんですが私料理超下手でしょ? このところすっっっごい悩んでます。料理のブログかたっぱしからあさってたんですが、みなさんお上手でちょっと書き込みしにくいんですよね。でもなんかkofiさんって雰囲気的に話せそうな気がして。出来たてブログだし。すみません、いきなり』

 ……そんな風に言われると。
 またまた返信する私。
 料金定額じゃないのに……。
 ――ま、いっか。
 いいじゃん、来月から給料30万+αだよ? そんなこせこせするなって。

『私も今お部屋からです。携帯なんでちょっと文章変かも。。カレシさんととってもしあわせそうで羨ましいな。どんな人ですか?』

 マジチャットみたいな使い方。
 数分おいて更新すると、すぐにみなみんさんの書き込みが。

『カレシは汐留族で、ちょっと長州小力に似ています』


 ――長州……!?
 そこで私は思わず吹いた。
 って、お笑いタレントだよね? ちょっとぽちゃっとした。
 汐留族の長州小力って。ププッ。


『――これ言うとみんな笑いますが。でもカレシってばすっっごくかわいーんです♪ 合コンで知り合いました。初めてのデートでもんじゃ(カレシの大好物です!)を食べに連れて行ってもらったんですが、へらすくっておいしそーに食べてるとこがチョ〜〜かわいくって・・。私の方がホレちゃいました♪』


 そうなんだー。長州コリキ似のカレシ……。
 何かわかるような気もする。母性本能くすぐるタイプなのかもしれないな。
 ……かわいーな。みなみんさんって。


『カレシは一応会社の社長さんです。ITじゃないけど。ヒルズにも知り合いがいっぱいいるみたいです。最初ははっきり言ってそんなセレブっぽい所にひかれたんだけど今はもうどっぷりラブ♪尽くしたいって感じです。本当は私の手料理食べてもらいたい。。。それに毎晩接待ってなんか心配じゃないですか?病気とか。カレシもう30過ぎてるんで(オジサン)。お昼くらいは手料理がいいですよねー。作れないけど。ヒロくん(カレシのHNです)にいつか私の作った料理食べさせて美味しいって言われたいです。Kofiさんのvip様はどちらにお勤めですか? 同じ汐留だったりして。ちがうかー』


 ―――どこって。

『ウチは新宿です』

 なんて書くといずればれちゃいそう……。
 というか、その言い方ってちょっとマダムの井戸端会議っぽくない?

「プッ」

 ヤダも――。胸がこそばゆい。だから結婚なんてしてないってのに。


『ええと、場所はちょっと秘密です。汐留じゃないかも――。でもSがつくのは一緒かな?』

 会長のこと……。書いちゃやばいよね。
 ――HNつけて登場させるくらいならいっかな。
 ぼんやり名前を考えてみる。

 ―――えーと、なるあき……。あきくん……なるくん……。
 や、かわいー。なるくん!?
 なんか子供みたいジャン?
 ってそのまんまかよ。こんなのダメだ。


『……それとvip様じゃなんかマジオヤジっぽいのでnars(ナール)さんてことにしときます。narsさんもそういえば毎晩接待みたいなことをおっしゃってました。お体のこと気になりますねー、お互い。ヘルシーな楽チンメニュー思いついたらアップしてみますね。あ、その前に食べてもらえなきゃダメだけど。頑張りまーす』


 ……ピッ。
 気付いたらかなりの時間接続してて。あんましやったことなかったから要領悪くって余計に。
 しょっぱなからこれじゃ今月分の請求コワイなー。
 フゥ――……。
 だけど。
 確かにそうなんだけど。
 何だか胸があったかくなって……。
 ――みなみんさんとヒロくんって。
 ヒロくんは想像できるけど、みなみんさんはどんな子なんだろう。
 カレシが家に住まわせてるくらいだからきっと超カワイーんだろうな。
 料理できないくらい別にどうってことないじゃん?
 いいナー。
 私の方が羨ましいよ。大事にされてて……。
 私なんて会長の怒り買って首切られたら終わりだもんね。
 何たって、
 ―――茶ひとつ満足に入れられない秘書は部屋に入れるな!
 ってお人だから。
 もー、会長ってばおじいさんじゃないんだからさ。お茶くらいくいっと飲んじゃえば?
 偏屈爺さん……。
 でもなんか憎めないっていうか……。
 ……私も……母性本能……くすぐられてるのかもしれない……。

 私は最後のカキコした後、携帯持ったまま眠ってしまった。

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