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密室の恋 22

『きゃ〜〜〜すごくかわいいですっ。ケーキご自分で作れるなんてホントうらやましいです!食べてくださる男性がいらっしゃると言うのも◎ですよね〜。ウチのは甘いのは完食してくれないかも。。。カンケーないけど、年末どうにか2日ほど遊んでもらえることになったんで旅行行ってきます。箱根ですけどね。。。kofiさんは何かご予定ありますか〜?』

『いいないいないいな〜〜。もうすぐクリスマスですよね。今年はケーキ作り挑戦してみようかな。実は昔ワッフルで作ってみたことがあります。ワッフルを重ねておうちをつくるのですが、子供がぐっちゃぐっちゃにしてしまいましたぁ><。まあ味は一緒なんですけどね。サンタさんの飾りを買ってきてのせるだけです♪』

家に戻ってブログ覗くと早速コメントが入っていた。好意的な感想に『ほっ……』。何だか危なかったし。会長。実は我慢してくれてるのかもしれないな。明日からもっと地味にしなくちゃ。ワッフル? それもいいかも。ワッフルメーカーもバッチリあるしね。

『こんにちは!実は今日はちょっと危なかったのですよ。やはり無難なメニューにしようと反省いたしました。旅行ですかあ。羨ましいです!私は実家に帰省するくらいですね。おそらく。まだ決めてませんが。島根なので結構大移動です。飛行機だと松江まで飛んでるんですけどね』

と打ち込んで相変わらずの貧乏性に笑いが出そうになる。給料アップしたんだから飛行機で帰省せんかい!ー−ハハハ。マジどうしよう。全然考えてなかったわ。

『どうも。ワッフルいいですね。明日はお客様が複数いらっしゃるということですのでブログできないかもしれませんが、是非参考にさせていただきますね!お子様と一緒なら何でも美味しいですよね。楽しそうなクリスマスで羨ましいです』

つらつら綴って、ハタと気付く。ーーくりすます? もうそんな時期かい! そういえば先週の金曜辺りからイルミネーションがついてたような。何故こんなにクールなの? 私。

『今年のクリスマスの予定。な〜〜んにもないから!』

ハハハ。もう笑うしか。ていうか、よく考えたらクリスマスどころか彼氏もいないし。ちなみに去年までは彼氏なり友達なり一応『予定』は入っていた。今年は今のところ『ゼロ』。久々1人きりのクリスマスイブですか? せっかく昇給したってのにさえない話だ。どうしようかなーーー……。





 朝。いつもの通り調子よくドアを開け、挨拶をしようとした私は中途半端なところで口をつぐんだ。「おはようございまぁ……」ーーーアレ?

「…… I'll call you as soon as I get there.……yes,we just want to get it over ahead of time……」

会長がお電話なさっていたからだ。低い声でべらべらと、大きな窓にもたれて、立ったまま。はじめて見る光景だった。眼鏡を外してて、とても鋭い目つきが露で。かなり若く見えた。いつもの若干オヤジ風……は微塵もない。

『ーーすみませ〜ん。お邪魔しましたぁ〜……』

心の中で呟いて、私はそそくさと退散……。すぐそばのキッチンへ続くドアに手を掛けた。

「市川くん」

中に入ってドアを閉めようとした瞬間、会長の声がそれを阻止した。

「あ、は、はい」

「おはようございます」
「おはよう」

いつもの挨拶。違うのは会長の眼鏡がないことか。裸眼でどのくらいの視力なんだろう。遮るものが何もないその眼差しはとってもきつくて私はドキドキした。

「私は今から出るので今日は何もしなくていいよ。その代わり、と言っては何だが、昨日の客が社の連中を連れて来るので世話してやってくれ。帰社予定は5時だが遅れるかもしれない」
「は、はい。わかりました」
まっすぐ見下ろされてるのがどうも気恥ずかしくて、視線をそらして答えた。

『……じゃ今日はブログお休みね』

そんなこと思いながら。

「悪いが私が戻るまでキミはここで待っていなさい。何か食べに行こう」
「へ?」
再び視線がかち合う。
「……明日から出張だからね」
「え?」

ーー出張? あ、そうだったっけ? 明日ぁ? すっかり忘れていた私は慌てた。

「そ、そうでしたーー…ね」
「食べたいものを考えておきなさい」
ーーえ?
「は、はい、ありがとうございます」
急なお言葉でただ従うしかできず、私はペコッと頭を下げた。
「いってらっしゃいませ」
会長は必要なことだけ言い終えるとすたすた出口へ向かわれて、私はそのままお見送りの言葉を言った。




 何? いきなり。行きたいところって。また5万とかそういうお店? イタめしとかじゃダメなのかな。出張か。ああ、そうだったーー。すっかり忘れてた。私、会長がいない間何してればいいんだろう……。
 考えながら手を動かして。我ながら大分慣れてきたと思う。本日のお客様向けに料理の下ごしらえだ。会長がいらっしゃらないのがわかっていたのであえて手巻き寿司とした。らくちんおもてなしメニューといえばやっぱこれだよね! 刺身や野菜、ツナ等の具をバンブーの細長いボードに載せて。それを2セット用意し、ラップをして冷蔵庫へ。炊飯器をスィッチオン。それと、大き目のホットプレートがあるのでタコヤキパーティならぬ、タコヤキプレートを使った『何でも焼き』。まあ何の工夫もなく小さく切った具を個別に焼いたり揚げたりするだけなんだけど、これが結構いい味に仕上がるのだ。そして3時のおやつにたこ焼きもどき。ホットケーキの生地にチョコとかチーズとかさまざまな具を入れて焼く。ーーまあ早い話が『手抜き』なんだけど、経験上これが一番盛り上がったりするので外せない。
 そうして仕込んでいると10時過ぎに電話が鳴った。出ると室長で、例のお客様がもうじきいらっしゃると告げられた。
『1人で大丈夫?』
なんて心配そうな声で。
『平気ですー。もう大方終わりです』
『そう? 無理しないでね』
相変わらず私は気の毒がられてるのかな。いつも帰るの秘書さんたちより早いし全然楽なんですけど……。



「こんにちは〜。来ちゃいましたっ」
11時前後に緑川氏ご一行が上がって来られた。全部で5名。会社の人だって言ってたけど、照明とか一眼レフとか脚立とか……。手ぶらの人は誰もいない。
「え〜、すごい眺めですねー」
「豪華なキッチンどすなあ」
わいわいがやがや。私も立ち会うよう言われ、見てると、お花や雑貨を飾り付けて、目の前のビルのコンランショップにあるようなそれはもう生活感のないキッチンが出来上がってーー。
「このタイルがいいよねえ。店っぽい感じを狙ったんだ」
「そうなんですか。(緑川さんがデザインしたの?)このロゴとか入っちゃってもいいんですか?」
ごはん丸って。
「いい、いい。後で消すから」
カシャ。カシャ。順調に進んで。お昼で一旦休憩となり、私は用意していた品を出した。白いカウンターに並べていると、
「これいいですねー。しゃちょ、料理並んでるとこも入れときません?」
とのひとことが上がり、それも急遽写真に収められる事に。

『キャー、もっといいモン出せばよかった』

なんて思うがもう遅い。

「すみませんね、じゃ、いただきまーす」
お初の賑やかな昼食パーティ。たこ焼きプレートで焼いた一口ステーキやちびウィンナーを寿司のお供にして。会長もこういうの見れば『私が巻くのか?』なんて発想なくなるのにね。つくづくそう思う。あの人友達とホームパーティとかしたことないのかな? 同じボンボンでも緑川さんは随分フレンドリーな感じなのに。
 そして1時間足らず。ものの見事にどれもこれも空になる。
「よかった、食べて頂けて。会長なんて、手巻き出しても『私が巻くのか』なんておっしゃるんですよ」
私は言った。
「ハハハ。許してやってちょ。ナル、その昔はディーリングルーム篭りっきりでFXやってたからなあ。食事なんていつもそこらへんで買ってきたデリですわ。ハハ」
そっか。何か似たような事聞かされたっけ。それでベーグルみたいなのでもオーケーなんだよね。
「ラッキーな事に結構いけてたからなあ。その習慣があるからか、こっち戻ってきて昼食食べに出るのが面倒だって当分言ってたよ」
アハハハと緑川さんは豪快に笑う。室長が言うとすごく気難しい人に聞こえるけど……何かえらい違いだ。
「でもさ、食事の趣味が合うのって重要だよね」
緑川さんは顔を寄せてにやっと笑った。
「え? どういう……」
「ナル、食べてるんだろ? だからそういうこと」
私はまたどきっとした。カフェで同じようなの出してたから……。たまたま、運がよかっただけ、だよね? 趣味が合うとまでは言えないんじゃない? 私、あの人のこと何も知らないし。
「ホントよろしく頼みますわぁ」
だーかーらー。そのニヤニヤするのやめて。頼むって何をーー…??


 食べ終えた食器類をデスクに除けて、撮影がまたはじまった。撮影係の男の人は色んな角度から何枚も撮っていく。パシャ。何か慣れてるんですけど。広報部隊?
「でもさ、新婚さんでもこれだけフルで家電揃えてるのって中々ないですよねー」
若い女の子が言った。
「てか、ここまで買ってやれる男がいないってのが実情?」
アハハハと笑いが起こる。
「いやあ、買ってやっても『作れない』のが現状じゃね?」
「いや、これだけ揃えて貰ったら料理教室通ってでも頑張りますよ!」
「どうだか。下手に頑張らない方がいいんじゃない? 結局残骸ばかり残って食器の山になるのが落ち……」
「だからあ、それはダンナの仕事ですって!」
「調子いいなあ」
「市川さん、実際こんなのばっかだからさ。米も炊かないんだ。生の声ってホントありがたいんだよ。だから感想引き続きお願いします」
「は、はあ」
そんなに料理ってしないものなのかな。まあ、働きながら自炊もっていうと確かに大変だろうけどさ。米も炊かないって、ウチの実家あたりじゃその方がありえない。やっぱり田舎だからか……。
「ホントにねえ。私なんて寿司飯も作れないですよ。きゃはは」
感覚の違いってこういうときに感じるもんだ。その親のお陰でわらしべ長者的今の待遇があるわけだけれども。
「まあキミら形から入るヤツもお客なんだからしゃーないよな」
ハハハと陽気な撮影は続き、そろそろ終盤かな? という頃合に「おやつタイムにしませんか?」と言ってみる。今までの経験上、タコパやって盛り上がらなかったためしはなく……たこ焼き風ホットボールとでも言うのか、子供のおやつみたいな手抜きメニュー(アハハ)もきれいに食べていただき、4時過ぎ、無事お開きとなった。

「それじゃナルによろしく」
「ありがとうございましたー」
「どうもー。お邪魔しましたー。おいしかったでーす」

皆が帰った後、たこ焼きプレートの丸い窪みをひとつひとつキュキュットしてるとふと会長の顔が浮かんだ。ホットプレートなんて縁のなさそうな会長。今日みたいなホームパーティもどき、アメリカの方が盛んだろうけれど。

会長、たこ焼きとか食べたことないんだろうな。
一度食べてみればいいのに。知らん振りしておやつにでも出しちゃおうかな。
庶民の味知らないのって可哀想じゃない?

『ーーそうだ、お好み焼きなんてどうかな』

今日のメニュー決めておけって言われてたんだ。
また万のつくとこじゃ気が引けるし、そう言ってみようかな。
『ハァ?』とか言われたら私が案内すればいいんだし。
関西焼き。それも自分で焼くヤツなんてどう?

『そうしよう!』

何だか想像するとわくわくしてきた。いつもより多い片付けもはかどって。そして会長が帰ってきた6時前。私はハヤル気持ちを押さえ、切り出した。

「あ、あのう、お好み焼きなんてどうですか? 鉄板で好きに焼いて食べるとこなんですけど……」

会長は「ああ」と頷いて、意外にもあっさりーー「いいよ」のお言葉が。
「ありがとうございます」
眼鏡なしの顔がまぶしかったり。

ーーああ、よかった! どこにしよう。ちょっとこぎれいなところがいいよね?

私は思いを巡らせた。ここは新宿。お好み焼き屋なんていくらでもある。友達とだったら反対側の風月とかいいけど、会長には……ちょっと歩いて丹波亭とか?

ーーとまあそこまではよかった。よかったんだけど、肝心な事を言い忘れていたようで。
社を出た会長はさっさとタクシーに私を乗せた。

『あ、えーと、歩いていけるんですけど……』

と心の中で呟いても聞こえるわけがない。
会長は行き先を告げ、車は動き出す。

「あのーー」

話し掛けようとするがとっても言いにくい雰囲気で。
告げられた行く先に『え?』と疑問を抱きつつ。

『もしかして、当てがあるのかな? 高級お好み焼き店??』

とでも思い込むしかなかろう。金曜日の夕方。道は混んでて会長は黙ったまま。
やがて到着したその場所を前に改めて思う私。

『ここー…、お好み焼きなんてあったっけ?』

そのへんのお好み焼き屋さんでーー…のつもりが。何故か会長が連れて行ってくれたのは新宿ですらなく。

ちょっと離れたウェスティンホテルだった。

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