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密室の恋 26

「へっ?」

と振り向く間もなく。
声とほぼ同時にドアが威勢良く開いたのだ。こっち向きに……。

バアン。

「ぶっ」
だか、「ぐへっ」だか、判別つかない音を発して私は前に吹っ飛んだ。

『いてぇーー』

「るせえんだよ! 警察呼ぶぞっ!!」
「んだとぉ〜〜」

痛い……。足打ったのかひねったのか。
涙ながらに体を起こす。っても尻餅ついた状態だが。
店長の後姿が目の前にあった。
そしてそれと対面する……隣の部屋から出てきた人。店長の影になって顔がよくわからないけど声はかなり若い。

「あーーあ、怪我させちゃってるじゃねーの、こりゃ傷害だな! 事件事件、110番っと!」

へっ? いや、それはあんたがドア開けた勢いでつまづいたんですけど。
なんて思うがもちろん声なんて出ない。
その人は携帯を振りかざした。そして実際にピピッとボタンを押した。

「はー? ざけんなてめえ……!」

殴りかかる店長。ひーーっ。

「ばぁか」

しかしその人はするっとかわし、携帯を引っ込めると店長の脇腹に足蹴りをお見舞いした。

「ぐはっ」

うわぁ、マジ痛そうっ……。
思わず顔を背ける私。
その間カシャカシャ写メの音が。

「証拠写真〜〜。さ、警察行こうか」
「や、やめっ」

店長はげほげほ言って、よろよろ立ち上がるとだーっと駆け出した。階段ですっ転ぶ音がする。そしてタタタタ……。音が夜の向こうに消えていく。
私はただただ呆然。何すかこの展開……。
つか、この人、隣の住人?

「大丈夫?」

すっと私に手を差し出す。
ボロアパートのさびさび手すりによっかかって動けない私。
この手すりがいよいよ朽ちていたなら私は落っこちていたかもしれない。
そんな極限状態。
足いてぇ……。
いや。そんなことより何より。
目の前の男の人があんまりにも想像の範囲を超えていて。
私は文字通り頭真っ白になっちゃった。

「立てないかな?」

手を握られそうになってはっとする。私は慌てて言った。

「す、すみません、ありがとうございましたっ!」

無理に立ち上がろうとするがやはりムリ……。よろめいてしまった。

「いたっ」

激痛が走る。どうやらひねってこすってしまったようだ。

「あ、よかったら手当てしとく? オレ湿布持ってるよ」

ぶるんぶるん首を横に振るが私はその人の顔をマジ見していた。

……だって、ものすごいかっこいいんだもん!

この人、隣の住人? えーー?





超美男子というか美少年というか、その隣人を私はまじまじと見つめていた。
その人の部屋で、その人が私の足に応急処置してくれてる間(結局そういうことになった)ずっと……。
不思議とドキドキはなかったけど。
この急展開のせいだろうか。

「この湿布は医者に貰った奴だから結構効く方だけど。ちゃんと明日病院行った方がいいよ」

し終えてその人はこっちを向いた。私はふっと目をそらした。

「どうもありがとう。助けてもらって」

怪我自体は店長からくらったものじゃないが。
しかしこの人がいなければ今頃どうなってたか。恐るべし女の1人暮らし。思い出すだけで……恐怖。

「怖かった……」

ぽつりと。やっと言葉になって出てくる。

「知り合い?」
「はい。昔のバイト先の店長……。金かせって。そんな人だったなんて」
「そういうことか。まあ関わらないことだな」
「でも……。また来ちゃったらどうしよう。オレ殺されるって言ってた」
「ハ、それ常套句じゃん。パチスロですったのがおちだぜ。マジに受けとるもんじゃねーよ」
「そうなのかな」

店長……。独立したみたいなこと言ってなかった? それでお金が? でも、もし借金が本当だとして貸せるの? 保証人とかにされちゃってとんずらされたらどうするの? ぞっとする。

「本当に……ありがとうございました」

しみじみ頭を下げる私。つくづく無力だわ。

「いやいや。……あ、はじめまして。オレ、瀬尾と言います」
「あ、こちらこそ。市川です」

何年も住んでるのにへんてこな挨拶だ。お互い表札出してないから。わかってるのはまあ男だろう、女だろうってくらいだ。
その美男子はさらに続けた。

「オレ、ひとこと言っておこう言っておこうと思って中々機会がなくって。おたくには迷惑掛けてるからさ。すみません、夜中に騒いで」

ぺこっと頭を下げた。

『えっ』

ドキっとする。例の夜中の色っぽい『騒音』。そうか。迷惑掛けてるって自覚はあったんだ……。
しかし『そうですね』とも言えない。引きつった笑みでごまかす(ごまかしてないか)。彼女と熱くていいっすねー、なんて言える状況じゃないし。


「ところでおたく、島根出身?」
「えっ?」
唐突に。なに?
「……何度かおたく宛の手紙、オレのポストに間違って入ってることあってさ。差出人の住所がいつも島根だったからそうなのかなって」
あ、そういうことか。私は頷いた。
「やっぱそうか。すげー偶然だなあ。オレ、隣の県なんだ」
え?
「広島?」
私は言った。すると彼は当てが外れたような顔で、
「いや、違う」
「じゃ、山口?」
「違うって」
彼はむっとした。

「……あのー、島根の隣って言ったらまず鳥取じゃね? 鳥取だよ、鳥取」
「えーー?」

私は本当に驚いた。そう、別に鳥取の存在を無視していたわけじゃなく。今まで会ったことないから! 地元を離れて、この東京で、まず同郷の人に会ったことがない。近い所で筆頭は広島、そうして山口出身の人。島根は東西に細長ーいので接する県境の長さ的に鳥取は微々たるもの。加えてお互い日本最少人口を競ってる県。その辺の地方都市より少なかったりするのだ。悲しいかな……。
私は素直にそのことを口にした。

「私、東京出てきて鳥取の人に会ったのはじめて」
「オレもだよ。おたく、松江? オレ、米子なんだ」

超近所じゃん! 今までのこの人の奇行(?)がふっとぶ親近感。

「え〜? そうなんだ。長いんですか?」
「ここ引っ越してきたのは3年半前」
「3年? 同じくらいなんだ」
へえ〜。人って本当に話してみないとわからないものなんだな。
喋るうちに私はさっきの恐怖はどこへやら、部屋をちらりと見回していた。シンプルな部屋。ベッドと冷蔵庫と棚がひとつ。カーテン代わりのブラウンの竹? 和紙? のロールスクリーンが目立つ。床のラグと同系色で、ほほぅ、こういうコーディネートもありなのね。同じ間取りなのに貧乏くさくない。男の人の部屋って感じだ。

「少しは落ち着いた?」

イケメン鳥取県人は立ち上がると冷蔵庫から紙パックを取り出した。

「何か飲む? と聞きたいところだけど、これしかなくってさ」

コップと一緒に持ってきたそれは白バラ牛乳のコーヒー牛乳。思い切りローカルなシロモノだ。
とくとく注いで、私に差し出す。

「ありがとう。これって……大山の牛乳だよね」
飲みつけてるわけじゃないけど一応知っているので。トットリくんはちょっと嬉しそうだった。
「オレ、これ好きなんだよねー。こっち来て全然売ってなくて、見かけたらまとめ買いしてるんだ。だから冷蔵庫の中こればっかり」
「自炊……しないの?」
「あはっ、するわけねー」
後ろに手をついて、ラフな姿勢になってあぐら……。
完全にりらっくま状態。何故かそんなにドキドキしない。カッコいいんだけど。この人。不思議な雰囲気だ。
私はコクコク白バラコーヒーを飲んだ。
「美味しいね」
「だろ? グ○コや雪○のじゃ何か違うんだ」
コーヒー牛乳自体飲みつけないが何となくわかる。男の人って変な所にこだわるのかもしれない。
「あ、あの、ありがとうございました。そ、そろそろ私、戻ります」
でもやはり男……。部屋に夜いちゃまずいじゃん? 彼女さんいるんだろうし。
よろよろ立ち上がろうとして『うぐっ』と呻きそうになる私。まだ痛い。やはり明日の病院行きは決定、か。
「大丈夫? オレ送るわ」
「あ、うん、でも……」
断ろうとして、まだまともに歩けそうにないので任せる。
送るっても隣なわけで。でも肩支えてもらってさすがにちょっとドキ。鍵出してもらって部屋の中まで入れてもらう。うへ〜。男入れたの久々〜。
「じゃ、すみません、ありがとうございました。御礼はまたしますね」
ぺたんと部屋の真ん中に座り込んで言うと、彼は「うん。ちょっと待ってて」と出て行った。
すぐに戻ってきて、白いレジ袋を差し出す。
「これ、ついでっていうか、飲んでよ」
さっきの白バラだ。1000mlの紙パック。断る由もなく(美味しかったし)頷くと彼はそれをうちの冷蔵庫に入れた。
「あの〜、差し出がましいこと言うようだけど。オレ前から思ってたんだよね。年頃の女性がよくこんなボロいアパートに住んでるなって。おたく、気をつけたほうがいいよ。さっきの奴また来るかもしれねーし」
割と心配そうに言われて私は「うん」と頷いた。この鳥取人は私のこと少しは認識していたらしい。
「引越し……。するつもりではいるんだ」
「あ、そう。ならよかった。今日はたまたまオレがいたからいいけどー。頼りになりそうな奴っていねーし、このアパート。その方がいいよ。まあ今日明日はさすがに来ないだろうけどさ」
「うん。ありがとう。あの、ごめんね」
本当にそうだな。この人言うことはまともだ。
「いやいや。だから、日頃のお詫びもこめて」

私はついぷっと小さく吹いた。

「あ、でも遊んでるわけじゃないぜ。一応仕事だからな」
『仕事?』
「……秘密のね。半分幽霊住民。だから郵便物なんてこねーの。それじゃ、オレ、これから『外注』なんで」
パタン、と何もなかったかのようにドアは閉まる。
『がいちゅう???』
不思議空気が漂う……。私はしばらくぽかんとしていた。





あったかいホットカーペットの上でしばらくじっとしていた。
思わぬ隣人の助けで救われたものの、怖かった……。
何であんなになっちゃったかなー? 前から好ましくない部類の人だった。ロン毛にズルダラファッションで決めてるんだろうけど乗り切れてないっていうか、田舎娘にそう思われてちゃダメでしょ、店長……。
足を痛めないようにそおっと横になる。照明つけっぱなしだがまあいいや。今日は怖いからこのまま寝よう。寝れたらいい……。だが、うとうとしかけてはまた意識が戻ってくる。ふと音楽を聴こうという気になった。賑やかめの曲を選んでシャッフルしてヘッドフォンでガンガンに流して気を紛らわして寝てしまえ、と。私は体を起こそうとした。
『うっ……』
でも動かない。おかしいなと思って足をかばい上半身に力を入れるがいつもと違う。そうしたつもりだが全然感覚がない。
『えっ』
驚いて叫んだ。が、実際声になっているのかどうか判別できない。
『ちょ、なに?』
口を動かしたつもりなのに。やはり聞こえない。全身は微動だにしない。

ーーーもしかして、これ、金縛りって奴……?

はじめてだった。冷や汗が出た。いや、出たように自分が思うだけで感覚は全くない。
『えーーーー、やだ、だれかっ』
怖すぎる。恐怖がドンドン増す。明かりがついていようと、それはほとんど意味をなさない。真夜中に明るい天井もまた別の意味で不気味に思える。硬直状態が続く。そして、不意に気配を感じた。
『誰?』
明るいのに。見えないのに。気配を感じる。
『ひ、ひいっ』

ーーーマヤさん!?

何故だろう。彼女だと思った。女の人だ。私が想像していたに過ぎない、長い髪の、すっとした美人顔の。その人の気配を感じて、私は泣き叫んだ。出もしない声を荒げて。

『マヤさん? ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、私、そんなつもりじゃなかったんですーーーー!』

ごめんなさい、ごめんなさいと何度叫んだだろう。謝る明確な理由は恐らくない。だが私が悪いのだ。私はがんじがらめに縛られていた。おそらく、うっすらと空が白み始めるまで。あまりに緊張して、それが長く続いて、感覚がいつ戻ったのか徐々にだったのかよくわからなかった。

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