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密室の恋2 10.night bird

私は走った。電車に飛び乗り新宿で乗り換え浜松町からモノレール。正月に辿ったコースを大慌てで。
あの人がヒロくんかどうかもうどうでもいい、バッグさえ返してもらえれば―――。
ああ、こんなことなら手放すんじゃなかった。
あの夜ホテルで渡された思い出のバッグ。捨てられてたらどうしようーー。
修理なんて頼んだ私がおかしいの?
着くや否や時間なんて見る間もなく案内板通りにバスに乗って、まだ工事中でしょぼい国際線ターミナルへ到着。
ああ、いますように。
目が潤んでボードが霞む。
建物はとってもしょぼいけれど人が大勢いて、おぼつかない視線をさえぎった。
香港、香港……。出発まで1時間切ってる。彼が待合室に上がっていたらアウトだ。
ああ…
グァム旅行で散々だった私とは対照的に友達連中はその後アジア各地制覇しまくってたな。
香港、台湾、上海、バンコク、シンガポール……。私だけポツン。
情けない、こんなことになろうとは。とことん飛行機と相性悪いのね。
きょろきょろするが彼らしい人はいない。
まだ向こうにいるのかな。食事でもしてるの? ここイマイチ小さいから……。
いや、狭くてラッキーだ。
見てるうちに目がなじんできた。
ぱっと見日本人かと思えた人たちが通じない言語で話しているのも聞こえてきた。
もう一度ゆっくりと見回した。

いた!

白っぽい服装の背の高い男の人。
あの人だーーー。
私は駆け寄った。

「あの!」

彼は振り向いた。
顔を向けるなりびっくりして、

「え? 君……」
「あの……」
「君もどこか旅行?」

すぐににっこりとホストスマイルになる。

「ち、違うの。私、バッグを返してもらおうと思って」
「バッグ?」
「私のバッグはどこに……」
「って、何? 君、一体……」

不思議そうな顔を私に向ける。そりゃそうだよね。まさかバッグのためにこんな所まで追っかけてくるなんて思いもしないだろう。手には何にも持ってない。白っぽいけれどホスト風とはちょいと異なるラフないでたち。旅行客には見えない。それでわかんなかったのかな。

「あー、ゴメン。ダメだったかな、あれじゃ」
「そういう意味じゃなくって……。とにかく返してください、お願いします!」

ちんたら説明なんかしてられないって!

「んーー、オレこれから香港なんだわ」
「返して、お願い」

彼は右手を額に当てた。お困りの様子だ。

「お願いします。あのバッグ、自分で買ったんじゃないの。貰ったものなの。大事にしたいから……」

言い切らないうちに涙が出てきた。
ひえ〜、ぶりっこじゃないっての!
でも胸が震えて……。思わずうつむいた。
初めてのプレゼントだもの。色んな思いがこもってる。
そりゃ私も大事に大事に使ってたとは言いがたいけどさ。

「かえして……」

情けない。涙でそれ以上言えない。

「まいったなあ」

素敵な声。甘い声。演技じゃなさそうな地の声。

「彼氏のプレゼントだったんだ?」

私は下向いたまま黙って首を横に振った。

「君たちってさ、T商事のOLさんだよね」

こくんと頷いた後で、「へ?」と顔を上げた。
何で知ってるの? と。

「言ってたじゃん。もう1人の人」

吉永さんかー。そんなこと喋ってたの?

「もしかして、会社関係の人かな? バッグ貰ったの」

ドッキーン。瞬間、涙がひいた。

「T商事会長室専任社員、って君のことだろ」
「え?」

何それ?
そんな肩書き今初めて聞くが。
ちょっと、やめてー。
いつの間にそんな大層なもんになってたんだ?

「あの」

涙の後を拭きもせず、ぽかんと彼の顔を見つめた。
彼はふっと微笑んだ。

「バッグね。今すぐには無理だけど、何とかしておくわ。ゴメン、気がつかなくて」

そのひとことで体の緊張がとけていく。

「携帯通じなくて焦っちゃったかな? 悪い。オレいつもそうしてるんで。また連絡するわ」

ほーーっと胸をなでおろす。ドキドキもおさまって、「ごめんなさい、いきなり。ちょっと見かけたもんで。チェックインまだでした?」なんて言葉も出てきた。
嘘くさいの〜。

「ん。いや。それは済んでる」
「あ、そうだ」

突如思い出してバッグの中の袋を取り出す。
透明な袋に入れた例のブリオッシュだ。
ちょっぴり形が同じ方向に歪んじゃってるが。
せめてもの気持ち……。
差し出すと彼はまたびっくり顔になった。

「え? オレに?」
「よかったら食べて。迷惑かけちゃったんで御礼です」
「もしかして、手づくり?」
「は、はあ。お嫌いですか?」
「いや。どうも」

すごい意外そうな顔して受け取る。
そんなに珍しいかな。
ホストだからもっといいもの貰うか。
やっぱ失敗か。

「まいったな……」

彼はじっと私のパンを見つめていた。じっと……その目が揺れ動いたような気がした。

「……これに落ちたってわけか。あの兄貴が」

微かに笑って、
『アニキ』確かにそう聞こえた。

「へっ?」

今度は私がびっくり、だ。

「兄さん……」

驚きの一言と、俳優のような彼の顔。パンを見つめながらその視線の先にあるのはパンじゃない。そんな愁いを帯びた声と表情に。

「えーー?」

しばし時が止まる。
何この展開。
何が起こってるんだ?
ドラマか? ドラマの撮影でもやってるの?
あの鳥取の人といい、ついていけないっ。

「も、もしかして、ヒロくん?」

思わず口をついて出たのがそれだ。
あわわわ、つい、ヒロくんなんて。
慌てて口をふさぐが遅い。
そんな私の目の前で、彼はゆっくりと頷いた。

「そうだよ」
「うそ」
「よく知ってるな、オレのこと。兄さんから聞いた?」

えーー?
信じられない。
桜の精のまやかしでは??

「フ、ヒロくんなんて呼ばれたの何年ぶりかな」

今までとがらっと違う寂しそうな笑みが真実を物語る。
嘘でしょ、あれほどやきもきしたのに。
まさか、自ら正体明かすとは。

「……あんたのことは知ってたよ。会長室専任社員、市川香苗。19ーー年9月26日生まれ、島根県松江市出身」
「な、どうして」

どういうこと?

「知っていた……。兄さんが11月にNYのmiu miuでバッグ買ったことも。兄さん名義の別のカード、利用明細が食品やら花やら ちまちましたものばっかりになってるからおかしいなと思ってたんだ」

え? え? え?

「いつの間に秘書なんか雇ってんだ? しかもオレより若いなんてさ!!」

あははは、と派手に笑う。つられて口だけ開ける私。ハハ……。

「あ、あの、意味が……」
「オレ、こう見えてph.D持ちなんだぜ? 専門はCS。兄貴の会社の人事データ見るくらいわけないや! クレカもな」
「えっ」

ぴーえぃち? って何?
データに侵入??
この人……。
オタはオタでもそっちのオタかー!

「そこまではたぶん兄貴も気付いてると思うけどね。どんな子だろうって気にはなってたんだ。まさか駅でぶつかった相手だとは。店で名前知ってたまげたぜ!」

狭いロビーに響く素敵な笑い声。
私はこのとき初めて、西日本出身者以外の口から『たまげた』という言葉を聞いたのだった。
東京の人も言うんだね。まあそれはおいといて。

「偶然お目にかかれるなんてね。光栄だ」

宝塚の男役みたいなきりっとしたポーズに切り替わる。さすがホスト……。

「で、何、あんたが兄さんの世話してんの?」
「いえ、その、お食事の……」
「フフ」

いきなり『あんた』呼ばわりしてくれる彼はちろんと上下に視線を流して、「料理好きな女は今までにもいたはずだけどな」

え。ドキ。この人も知ってるの? 会長のモテ期……。

「兄さんの好み、ばっちり押さえたってわけだ」
「そ、そんなわけじゃ……」
「フ、メシか。ハハッ、親父とまるっきり一緒じゃないか、こりゃいいや!!」

また笑い転げる。
どうでもいいけど搭乗時間が迫ってるのでは?

「ふ、不破さんていうのは、嘘の名前だったんですね」

香港行きがアナウンスされてるが気にしない様子。の彼に私は言った。

「ん? いや、実在の人間だよ。ほら」

ポケットを探って私の目の前にパスポートをかざした。

……不破了。確かに。写真も。どーいうこと?

「なりすましてるの?」
「いや、ID必要な時だけね。ちょっくら拝借してるわけ」

それって……偽造と大して変わらないんじゃ。そもそも審査でばれないの?
じーっと証明写真を見つめる。なるほど、よく似ている。でも違うといわれれば違うよ?
堂々と他人のパスポート使って移動してるってこと??
えーー?
証明写真ってホント当てにならないのね。

「そ、そこまでして……」
「逃げ回ってるわけじゃない。もう少し……兄貴とは距離を置いていたいんだ」
「え? どうして……」

あんなに心配してるのに、会長。この人が現れてくれたらどんなに喜ぶことだろう。

「あんた、どこまで知ってるんだ? オレたちのこと」

ぎく。

「……け、けんか別れのようになったって。婚約してたのがダメになって……」
「そうか。兄さんが?」
「はい」
「マヤさんの話を?」
「え、ええ」

彼は黙って深く頷いた。

「あの兄貴が喋るなんて相当……。いや、オレも兄貴には悪いことしたって思ってるよ」
「じゃ、じゃあ」

会長に会ってあげて! 私は目で訴えた。

「ん。でもオレにも考えがあって。離れてみるとよくわかるんだ、兄さんの立場。オレにはとても真似できない。オレは、兄貴に迷惑かけてばっかりだったから」

よくわかってるじゃん。

「喋りたきゃ喋ってもいいよ。でもまだ会えない……。ま、そばにいてもオレにはリーマンなんて勤まらないけどな」
「高広くん……」

じんとした。変わってるっちゃ変わってるけど、それはお兄さんも同じだ。

「まあ兄貴らしいや。オレが新宿うろついていても気がつきゃしない。兄貴は新宿のあっち側には絶対行かないからな。わかってはいたんだが」
「見つけて欲しかった、とか?」
「そういうわけじゃないよ。完璧なようでいて完璧じゃないって話。オレ、マヤさんのブログにも書き込みしてるんだけどな」
「えっ、そうなの」
「ああ。一番テンション高いのがオレさ。兄貴が見てるかどうか知らんが。あんたもやってるよね? ブログ」
「えっ」

ドキーーン。心臓がぶっ飛びそうになった。そこまで読まれてるの?

「フフ」

きらりんと王子様スマイル。なるほど、緑川さんの言葉どおりだ。想像の上を行くよ。兄上もそうだが。

「確かに兄貴が食いそうなものばっかりだ。単に料理できりゃいいってもんじゃないんだな。あれだけ女の条件に厳しい兄貴がねえ。実は面食いじゃなかったのかな?」

どういう意味だーー。すいませんね、10人並みの顔で。

「高広くん、ひょっとして、マヤさんのこと、好きだった?」
「え? どうして」
「会長が言ってたから。それで……」

揉めたんじゃないの? こじれたっていうか。

「フ、ならいいんだけどな」

ちらっと彼の視線が動いた。壁の時計かな。少しは気にしてたのか。

「兄さんが彼女変える度、一人前に説教たれてたな。今思うとオレ義姉さんが欲しかったんだと思うわ。兄貴の嫁さんになってくれる人」

ドキン、何故私の胸が鳴るの。

「お、女の子に興味ないって……。そんなに慣れてる感じなのに?」

そう。そこはどうも解せない。そんな人がホストやるかって話。

「それも兄さんが?」
「い、いえ。その、会長のお友達……」
「あーー、緑川のおっさんか!」

ぱっと彼の顔が明るくなった。

「あと何か言ってた? オレのこと」
「は、はあ。ちょっと、変わってる、って」
「ハハハ、言ってくれるなあ、オレがいないのをいいことに。自分は鉄オタの癖に」

鉄オタ?

「みんな元気してる? 何か色々思い出すわ」

明るい人だ。からっとしている。まさしく自由人て感じ。会長はあんなに大変そうなのに。何だか複雑な心境。

「かわいがってもらってたからさ、兄貴と兄貴の知り合いに。親父が死んだおふくろに操立てて、女っ気一切絶ちやがったせいで、オレも兄貴も女が『鬼門』で さ。ガキの頃から揉めてばっかり。親父が相手の家に頭下げに行って逆に恐縮されたり、色々あった。お陰で2人とも結婚願望ゼロ。跡取りは考えなくていいっ て言われていたのに……皮肉だよな、縁談パアになって後継ぐ羽目になるなんて。 あのまま結婚してたら兄さんまだNYにいたかもしれない……」
「高広くん……」
「オレなりに反省して、勉強してるつもりだよ。この4年で少しは変わったと思う。少なくとも兄さんみたいに女を泣かせることはない」

って。会長って女泣かせなの? 気になる台詞だ。

「ま、時機を見て謝るつもりではいるんだ。今日のところは見逃してくれ。次の仕事入ってるし」

いきなり彼は顔を近づけた。

「今度会うときはあんたがオレの義姉さんになってるのかな」
「えっ」

かぁ〜と耳まで熱くなる。
だからそんなんじゃないんだってば!
誰に言ってもわかってもらえない。

「フフ」

彼は「じゃ」と向こうを向いた。とても国際線とは思えない出発口。その向こうに待機しているであろう香港行きの機体。……行っちゃう、高広くん!

「待って!」

そこからの私。
まくし立てるように喋っていた。

「お願い、一度でいいから元気な姿を会長に……お父さんに見せてあげて。お願いします」

彼はまた振り向いた。少し驚いた顔で。

「お願い……。会長、それ以来、時が止まっちゃってるの。前に進めないの。多分、お父さんも。いつもいつも高広くんのこと、気にかけているの。だから、お願い、メールでも、葉書でも何でもいい、今の姿を見せてあげて!!」

思いがこみ上げて、またまた目がうるうるした。
彼はじっと視線を合わせて、「わかったよ。約束する」

「またね。それまでオレのバッグ使っててくれ」

ばちっとウィンクして、「兄貴にバレないようにな!」また背を向けた。
広い背中。ああ、やっぱり会長にそっくりだ。歩き方も。
やっぱり……新宿にいたんだね。会長……もっといい探偵雇えって。ど素人の私が見つけてどうするよ。
いっちゃった。審査あっさり通って。アハハ……。
私はずっと見ていた。しばらくそこにたたずんでいた。泡のように色んな思いが浮かんでは消える。
正月にひどい目にあった空港なのに(ひどい目にあったのは機内と伊丹だが)。出雲並みにしょぼいロビーなのに。まるでドラマのシーンみたいにじーーんと感動して。

桜の国の王子様。桜の花とともに現れて……消えて。
天真爛漫でとても国内に留まってられない王子様。
不思議な力で離れた場所から苦労人の兄君を見守っているの。
お忍びで帰国中、兄君が飼い猫に与えたおもちゃのバッグを傷つけてしまいましたが見事桜色のバッグに変身させましたとさ。

しかしハタと気付く。

「バッグ〜? そういえば、どこやったっけ?」

伊勢丹miu miuのバッグ。手に持ってやしない。
ちょっと、いつからないの〜?
慌ててその場を離れて、キョロキョロしながら来た道を遡る。
まただよ……。
あのアパートに辿りついたのは10時すぎ……。

「やあ、来ると思ってたよ」

あの人に大笑いされて。「はい。これ」とショップ袋手渡されて。無事バッグは手元に戻った。

「で、不破くんには会えましたか?」
「は、はあ」

ただただ赤面。お礼だけはしっかりしておいたが。
何かと恩人だよね。あの人。あ、また名前聞くの忘れた。



ひとまず一件落着。
私は気持ちのいい朝を迎えた。
一段と元気よく挨拶して。
会長がエスプレッソ飲んでる間もニコニコ……。

「? 何だ、何か用か」

怪訝な顔の会長。

よかったですね、会長。そのうち幸せメールが届きますよ。
ああ、その時私はどんなリアクションしてあげればいいんだろう。
想像するとまたまた、にま〜。

「何かいいことでもあったのか? 結構なことだ」

ええ。ありましたよ。会長もじきに……うひひひ。

「お昼はペニンシュラの立食パーティに出席でしたね。その後どうされますか?」

何でも作って差し上げますよ。
じゃんじゃんオーダーしてください。気分は最高だ。

「ああ、そのことだが……。君も行ってみるかい?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。若い世代ばかりだよ。私は人に会いに行くんだが。後はまた横浜だ。君は好きに帰りなさい」

ヤッター。ラッキー。ペニンシュラのパーティだって。わくわく。
今日はなんていい日なんだ。
ついてるついでにこんなことを口走った。

「会長、マヤさんのブログ、教えてもらってもいいですか?」

会長の表情が一瞬こわばって、すぐに戻る。

「……君のPC立ち上がってるか?」
「はい」

すっと立って、キッチンへ歩いていく。
窓際の私のPCのキーボードの上を長い指がうごめく。何かの生物のように。そう見えた。
アドレスバーに打ち込むほんの1、2秒だ。会長はさっと離れた。

「あ、ありがとうございます」

何だか照れくさくなって、余計な一言をくっつけた。

「ブログご覧になるんですね」

特に意味はないが。会長はドアの手前でこちらを向いた。

「私が? まさか。付き合う前からやってたんだよ。緑川がしきりに見てみろとうるさいがね。もう気にするなというニュアンスだと思うが。余計な世話だ」
「気にされてたんじゃないんですか?」

と言うと会長はほんのちょっと間をおいて、

「……女性の影を引きずる男に見えるか?」

キッと強い視線を向けた。

何よ。アドレス覚えてるんだからそうじゃないの?

しかしいつものごとく、何も返せず。
まあいいや。高広くんのコメント探そう。
と、PCに向き合う。

「えっ」

ところがどっこい。

「ちょ、これ、英語〜〜?」

ブログっても日本だけじゃないわけで。
そこに並ぶのはエーゴ。ずらりとローマ字。時々数字。
マジで? 間違えてるんじゃないの〜?
プロフィールの欄を見ると確かにMAYAとなっている。
当然だがコメントも全部英語。やたらと!!!が多い。
これじゃどれがテンション高いかわからないよー。
たちまちうろたえる私。

それでも翻訳かけてみたりと一応努力はしてみる。聞いた以上はそれくらいしないと。
変な日本語になって余計こんがらがる。誰か訳してくれー。

あーあ、やっぱり私には入れない領域ってあるのかも。
英語と飛行機。自分の課題は何一つ前進してないじゃん。ああ〜…。
こんなのでアメリカ行こうってんだからそりゃ親も信じないよな。
ナルくんに頼んでも訳してなんかくれないだろうし。
どっちも自分で何とかしろって?
なんか腹立つわー。

「アメリカ行き中止にならないかな〜」

机の上にでんと横向きになり、携帯を出してフォルダの画像を選択。

あーほれぼれするわ。消しちゃうの惜しいな。待ち受けにしたいほどイケメンだわ。
例のあの人の画像だ。
この人こそ隠れ王子様かもね。教えてもらわなかったら今頃どうなってたやら。
王子様の横でゆらゆら揺れる縁結びストラップ。
朝の光を浴びた白いタイルを背景にパステルトーンがより映える。
とりあえず願いはかないましたわ。
ありがとう、神様……。

ところが。
私の念じ方がいけなかったのか、大社パワー凄しなのか、はたまた単にミーハーなのか、神様の思し召しはこれだけじゃなかったようで。
のちのち思わぬ事態になっちゃうのだが、それはまた後日の話……。
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