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密室の恋3 その6

 思い立ったら即行動ーー。
 私のとりえね。
 こればっかりは今も昔も変わんない。
 脳細胞より手足が先に動いちゃうわけだ。まあ、考えが浅いといえばそうなんだけど。
 気持ちのいい五月晴れの朝。いつもより10分早くアパートを出て、新宿方面へ歩く歩く。
 会長に言わせると、『徒歩通勤なんてとんでもない!』とのことだが、ち〜っとも『とんでもなくない』ですよ。
 この沿線だけでどれだけ店があることか。電車で通り過ぎちゃうなんて私にはもったいない話である(電車の中はそれはそれで別な楽しみがあるのだが)。
 すぐ前を歩いている大学生と思しきおにいちゃんが、コンビニにふらっと入っていく。
 朝飯調達するのかな。服装も髪型もきめきめだけど朝飯食らう手間隙はかけないのね。
 歩きながらコロッケパンでもかっくらうのかな。withコーヒー牛乳。
 ぷっ。
 そんな妄想しつつ歩いてると駅なんてすぐ。
『コレ、甲州街道なんだ』なぁんて田舎モノにはちょっとした発見であるその道を(どう見ても普通の道路なんだけど!)幡ヶ谷駅の反対側に抜け、こじんまりした雑居ビルの中のカフェや街道沿いの茶屋ならぬメシ屋をチェックしてるといつしかたか〜いビルが左手に見える。ごちゃっとした生活感溢れる通りにいきなりそびえたつ、何だか草原に一本立ちしてる木みたいなそのビル、オペラシティをすぎればもう会社に着いたも同然。
 ちなみに途中代々木方面に曲がればユニクロ御殿なんてのもあったりして、東京の隠れた名所を楽しめたりするのさ(ま〜、その場合はひたすら長〜い塀を眺めるだけだが)。

 さて、本日目指すのはそのほぼ中間地点にある病院だ。
 ばっちり電車目線に看板が出ていて知っていた。
 いざ来てみるといたって普通の総合病院。
 ちょっと年季の入った……。そしてやっぱり混んでる。こういうところに密かに名医がいたりするのかな〜なんて思いつつ初診受付の番号札を取る。

「心療内科ですね。あちらの非常口を目指してまっすぐいかれましたらレントゲン室の手前で右に折れてください。その突き当りに窓口がありますのでそちらでお待ちください」

 言われたとおり、昭和な雰囲気満載の廊下を進む。
 レントゲン室前で右折、やや暗い、ドラマに出てきそうな通路の先で、ぱっと視界が開ける。
 明るい日差し。
 ガラス張りのサンルームのようなテラスのような空間の向こうには病院というよりちょっと裕福なお宅の庭先、といった風情の裏庭(?)が広がっていた。
 そこの脇にある小さな窓口で診察券を渡すと少し待つように言われ、これまた昭和な古い革張りのベンチに座って庭を眺めた。
 りすなんか駆け抜けていきそうな、丈の長い芝がいい感じだ。
 だが。
 外来患者は私しかいない?
 あっちを見てもこっちを見ても誰か来る気配はない。
 しーーんて。私は席を立った。
「あの〜、ちょっと外を見させてもらっていいですか?」
 年配の看護士さんに言うと「どうぞ〜」と高い声が返ってきた。
 遠慮なく。ガラガラ……と重いガラスの引き戸を開けたとたん、スーッと風が通る。
 こぎれいに手入れされた庭だ。
 結構な街中のはずなのに割と静か。
 それは、芝生を囲む木立のお陰だろうか。
 小鳥のさえずりなんかも聞こえる。
 木には実がなっていた。
 近づく前に何の実か私にはわかった。
 田舎でもおなじみの、グミの実だ。
「おっ、なつかし〜い」
 私は思わず近寄って、細い小枝をひとつ摘んだ。
 グミなんて田舎で当たり前の風景だが、ここ東京で見たのは初めてだ。
 ちゃんと実になるのね。
 つい、ぶちっと一粒もいだ。
 なつかしいな〜、どんな味するのかな〜、東京のグミは。
 行儀の悪いことに口に放り込んだ、そのときだ。
「ほほほ、お味はどうですかな」
 木の陰からぬぅっとおじいさんが現れ、私はぎょっとした。
 はずみで、グミをのどに引っ掛けそうになる。
「ぐ、ぐふっ」
 完全に花盗人……。な私は気まずく、目をそらした。「す、すいません」
「いやいや、構いませんよ」
 おじいさんはほがらかに笑って首を横に振る。
「珍しいでしょう。この木は戦前からあるんですわ。誰も食べなくてねえ。世話してやるのも僕だけなんですよ」
 グミの木なんて世話するものなのか……?
 田舎の伸び放題な野生のグミを想像して私は思った。
 その間ひそかに実が胃に落ちてほっとする。
「東京で見たのは初めてです」
 胸をこつこつ叩きながら私は言った。
「でしょうなあ。僕も他では滅多に見ません。これねえ、ジャムにしてもいけるんですよ」
あ、そうそう。おばあちゃんが作ってた時期があったな。「前は子供にやったりしてたんですがねえ、この頃はグミなんて皆知らんからいちいち説明せんといかんのですわ」「なるほど〜」お菓子売り場に並んでるグミがそのまま木に生ってるとでも思うのかな。「畑でもないし、気味悪がってね、食べりゃうまいのにねえ」おじいさんはひょいと一粒口に放り込む。
 もぐもぐもぐ……。なんともかわゆい仕草で、つられて微笑む私。
「まあ、ごゆっくり」
 おじいさんは仙人みたいな笑みを浮かべ庭の向こうへ消えた。片手にグミの実で一杯の籠を抱えていた。
 何だか和んでしまった私は名前を呼ばれるまでそのまま庭でぶらぶらして過ごした。


 しかし。
「こちらへどうぞ〜」
 名前を呼ばれ、診察室なる部屋に通された私はまたまたぎょっとした。
 さっきの仙人が白衣を着て、レトロなドクターズチェアに腰掛けていたからだ。
「はいはい。さきほどはどうも〜」
 先生だったの〜? 早く言ってよ!
「今日はどうされましたか〜?」
「は、はい。実は」
 私は遠慮がちに『病状』なるものを説明した。
「飛行機、乗れるようになりますかね……。今月出張命令が出てまして。すぐに治したいんです」
「そうねえ。薬あることにはありますがねえ。こういうのは大抵自律神経の問題なんですわ」
「はあ」
 ドクターは顔を近づけた。
「他に何かダメな乗り物は?」
「いえ、特に」
「狭いところがダメ、とかは」
「いいえ」
「いつ頃からですかねえ?」
 すらすらカルテにペンを走らせる。
 回転イスが回るたび、きゅきゅと音がした。
「色々考えすぎて余計緊張してしまうんですなあ」
「はあ」
 うーんと顎に手をやって考え込むような動作をしたあと、ドクターはまじめな顔で言った。
「ところでお生まれは? 東京?」
「は?」
 そして何故かそれから……。
 およそ飛行機とは関係のない話を始めた。
「へ〜、島根ねえ。じゃあ、桑の実なんかも自生してるんじゃない」
「ええ」
 なんつーローカルな。
 ただの世間話……?
 内心首を傾げつつ、やり取りしているうち私は全然関係のないことを思っていた。

 その声誰かに似てるなあ……。

 オタクっぽいというか妙にまじめくさいというか、どこかで聞き覚えが。

「まあ、薬は出しとくけど、あんまり緊張しないことよ」
「はあ」
「リラックス、リラックス」
 結局それから大して進展もせず、「じゃあ、お大事に〜」何故かグミをどっさりもらって、私は病院を後にした。


 よくわからない診察……。これで3360円はどうなの?
 何となく不安が漂うが、薬もあることだし、とりあえずは昨日より更に前進?
 なんて、小さいことを気にしないのも私のいいところだ。
 再び新宿方面へと歩く。どんどん近づく高層ビル群。
 オペラシティを過ぎるとぐっとそれらしくなる。
 新宿西側の摩天楼。テレビでおなじみのビル、ビル、ビル。
 その代表が都庁だ。
 ああ、いい天気〜。
 さすが絵になるなあ。こうして見るとガウディの教会っぽい?
 いつも見てるのに、あんまりきれいで、ふと親に写メでもするか、と思い立つ。

『どうよ、都庁だぞ』

 てね。
 コレ見て少しは娘を見直せよ。
 このすぐ先にある大企業さまで、ちゃあんと働いてますよ。
 せ・い・しゃ・い・んで。
 通勤時間はとっくに過ぎ、はとバスが回ってくる時間でもなく、私はのんびりアングルを探る。
 腰をかがめて、頭を横に傾ける。
 さわさわ風がそよぐ。
 不意に、さっきのおじいちゃんの声が耳に甦った。

『リラックス、リラックス』

 リラックスて。
 これ以上リラックスしてどーしろと?
 この上なく楽させてもらってるんですが。

「あー」

 と、そこでいきなり解明。

 あの声……。
 バカリズムにそっくりじゃん。

 顔はじーちゃんでも、声は。

「ぷふっ」

 私は吹き出した。

「あははは……。やーだ、かわいー」

 箸が転がってもおかしい年頃……なんてとっくに過ぎちゃってるが、何だかとまらない(早く撮れっちゅーの)。
 その系統ツボなのか。
 やっぱある意味当たり? あの病院。

「よかったらお撮りしましょうか?」

「はっ」

 それは青天の霹靂……。
 いや、そんなおどろおどろしいものじゃない。
 どちらかというと、天のお声?
 どっちでもいい、突如ふって沸いたその声に私はあたふたと姿勢をただし、きょろきょろ見回した。
 どこ〜?
 ぐるっと、180度二往復してぴたっと止まる。
 目線の……上だ。
 石造りの壇上にその人物は立っていた。

「よっ、元気?」

 見上げるなりどきっとして、携帯落っことしそうになる。

「高広くん」
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