密室の恋3 その22
2012.02.03 Friday 17:50
「かな、かなったら!」
「えっ?」
「どうしたの? さっきからずっとケータイ見て」
「あ、ごご、ごめん」
「もう頼んじゃったよ。かなはどうする?」
「えっ? あ、と、とりあえず同じので」
「あとでまた追加すればええやろ」
彼らが案内してくれた店はあっきのアパートからすぐのごく普通の『中華料理屋』だった。
いつもの店、なんて言うからお好み焼きかな?と思っていたのだが。広島だし。
別にそれはそれでいいのだが、私ったらずっと携帯とにらめっこしていたらしい。
感じ悪いよね。
『平気で携帯をいじってるし…いい度胸してるな』
胸に寒い風が吹くと同時につい先日会長に言われたセリフが頭をよぎる。
ヤバ。
これだ。これがダメなんだー私。
「ごめん、つい」
「ふふ、彼氏から?」
ドキ。
「ち、ちが」
「いやーん、超かっこいいじゃん!」
開けっ放しの私の携帯を覗いてあっき。
四人がけの小さなテーブル席に女二人並んで向かい側に彼氏、という構図なのだ。
し、しまった、高広くんの画像…
「えー? 彼氏もどこかお出かけ中?」
画像タイトル
『いざリゾートへ\(^o^)/』
……。
ちがう…ちがう…ちがーーう!!
「ち、ちがうの! この人はえーと、会社の上司の弟さんっていうか」
「え?」
あっきは目を丸めた。
「かな、前付き合ってた人じゃないんだ?」
「え?」
今度は私がきょとん、だ。
「あ、そ、それは、も、もうだいぶ前に…」
「あ、そうなんだ、ふうん」
そ、そうか。私の彼氏事情、知らなくて当然だ。
私、東京に出てきてからの男関係、殆ど地元の子に知らせてない。
いるかいないかくらいで。
まだ付き合ってる頃、ちょっとその事はなしたくらいだから、そのままだと思われてても不思議じゃない。
「へー、それで今は会社の人の弟さんといい感じなんだ?」
えっ?
「いや、そうじゃなくって、これは…えーーっと」
しどろもどろに否定してると最初の一品がやってきた。「ハイ、お待たせしました」
「きたきた」
「えへへ〜、これこれ。かな、どうぞ」
天ぷら盛り合わせだ。
うまそー。
でも天ぷら? 中華料理屋…だったよね?
とふと疑問に思ったが、箸が動くほうが早い。
「いただきま〜す」
揚げたての天ぷらのにおいごと、ぱくっと口へ放り込んだ。
「おいし〜。これ何?」
まず衣は当然ながらさっくさく。中のものはこりこりして…肉汁といってよいのか…それが口の中いっぱいに広がって…じゅわわーー…
なかなか噛み切れない?
「白肉天だよ〜」
「シロニク?」
「ミノミノ。焼肉でよく食べるじゃん? あれあれ」
あっきも食べながら説明してくれる。
「ミノー?」
私は焼肉の網にミノがのっかってる図を想像してみた。
炭火の上で汁が下に落ちてはじゅーじゅー焦げてくミノ。
あれはあれでうまいが、天ぷらにするとこんな味になるんだ。
ほぉ〜〜〜。
「こりこりしてるでしょ」
「うん。ミノの天ぷらなんて初めて食べた〜」
あっきはうんうん頷いて、
「前はさー中華って言うと麻婆とかエビチリとか頼んでたんだけどー最近はここへ来てこればっかりなんだー」
「うんうん、美味しい〜〜。ありがとっ」
「よかった〜。おやじメニューもたまにはいいでしょ。こっちは豚天ね」
あっきご満悦。
これ食べさせたかったのかな。
豚天の方も美味である。
中華料理屋さんのメニューでこんな…ご当地グルメってやつだろうか。
よく言われることだが、おっさん御用達のこういう店にこそ逸品が潜んでいるものだ。
「なあ、いけるやろ」
彼氏も満足げである。
「俺もこれここ来て初めて食うたんや」
「へーそうなんだ」
「広島じゃポピュラーなんやな。この前居酒屋にもあったで」
「ビールに合いそうですね」
「お。いける口? 飲んでもええよ」
いえいえ、一応仕事なんで。と首を振ると彼氏は笑った。
「最初は白肉て何や? 思うたけどな」
白肉。
ミノか。
これは何やら使えそうなメニューである。
男が好きそうなメニュー、いわゆるゲテモノ系。
それに男ってやっぱ揚げ物好きだからさ。
今度会長室で若手の子集めてプレゼンの前練習やるって言ってたからその時のつまみにどうだろうか。
ミノに天ぷら粉つけて揚げればいいんでしょ?
などと。
つい職業病だろうか。
頭が勝手に料理の手順をシミュレートするのだ。
フムフム…
くちゃくちゃ口を動かしつつ固まる私の前をあっきの手がよぎった。
「みっくん、携帯かして〜」
「ん」
すんごい早業で何やらいじくると、「もしも〜し、あたし・・」おなじみの八宝菜やレバニラも届いて彩り豊かなテーブルの上にスマホをかざした。「ランチなう〜」 次に隣の私に向け、「今日はかなも一緒デース」
なになに?
ビデオ通話か。
とっさににこっとする私。
ピースまでして。
慣れとは怖いものだ。
あっきは立ち上がると彼氏のそばに寄った。
「これから山口にいってきまーす。角島でいか買ってくるね♪」
と、ケータイの前で彼氏と頬寄せ合ってにっこり。
「やだ〜。向こうもランチだって〜〜」
ケータイから何やら音声が漏れる。
懐かしい松江訛りの言葉だ。
あっきは楽しそうにやりとりして、携帯を置いた。
どうやら相手は親らしい。
「あっき、なに〜? おばさんと?」
私は尋ねた。
「そうそう。お母さんスマホにしてさ〜。みっくんのと同じだからしょっちゅうやりとりしてるのー」
え、もうそんな仲なの…
「みっくんと一緒にいるとこ見せたらお母さんすんごい喜ぶんだよね〜」
なるほど。
彼氏かっこいいから…
落ち着いた感じだしおばさんも安心なのかな。
前彼のようにちょっぴりやんちゃ系とかじゃなく…
見ていて安心を覚える彼氏? フフ。
などとつい母親の立場で考える私である。
なんとなくわかる気がする。
安心というか得体の知れない不安を感じなくて済むというか…やっぱ男も見た目よね。
それに。
人前でいきなり携帯かざして。
なんて別に私だけじゃないじゃん。
彼氏も全然怒んないし。
ていうか楽しそう。
何この差…ブツブツ…。
誰にぶつけるでもない不満がフツフツと湧いてくるのである。
「俺も親父にこれ見せたんや。そしたら『ミノか。そういえば昔どこかで食った覚えがあるで』言い出してな。探してきとんねん。大阪の店らしいわ」
とスマホをいじりながら彼氏。
「へえ〜」
「気に入っとるみたいや。こないだもお袋連れて行ってきてん。その店じゃミノ天いうらしいけどな」
「そうなんだ〜」
ハイ、文句なし。
もうひと皿追加〜。
オシャレには程遠いが『きたなトラン』ほど薄汚れてもなく、実になんでもない普通の店だったが。
その後皿うどんやラーメンも追加し、私はとっても満足したのだった。
新レシピげっとぉ〜〜。
「えっ?」
「どうしたの? さっきからずっとケータイ見て」
「あ、ごご、ごめん」
「もう頼んじゃったよ。かなはどうする?」
「えっ? あ、と、とりあえず同じので」
「あとでまた追加すればええやろ」
彼らが案内してくれた店はあっきのアパートからすぐのごく普通の『中華料理屋』だった。
いつもの店、なんて言うからお好み焼きかな?と思っていたのだが。広島だし。
別にそれはそれでいいのだが、私ったらずっと携帯とにらめっこしていたらしい。
感じ悪いよね。
『平気で携帯をいじってるし…いい度胸してるな』
胸に寒い風が吹くと同時につい先日会長に言われたセリフが頭をよぎる。
ヤバ。
これだ。これがダメなんだー私。
「ごめん、つい」
「ふふ、彼氏から?」
ドキ。
「ち、ちが」
「いやーん、超かっこいいじゃん!」
開けっ放しの私の携帯を覗いてあっき。
四人がけの小さなテーブル席に女二人並んで向かい側に彼氏、という構図なのだ。
し、しまった、高広くんの画像…
「えー? 彼氏もどこかお出かけ中?」
画像タイトル
『いざリゾートへ\(^o^)/』
……。
ちがう…ちがう…ちがーーう!!
「ち、ちがうの! この人はえーと、会社の上司の弟さんっていうか」
「え?」
あっきは目を丸めた。
「かな、前付き合ってた人じゃないんだ?」
「え?」
今度は私がきょとん、だ。
「あ、そ、それは、も、もうだいぶ前に…」
「あ、そうなんだ、ふうん」
そ、そうか。私の彼氏事情、知らなくて当然だ。
私、東京に出てきてからの男関係、殆ど地元の子に知らせてない。
いるかいないかくらいで。
まだ付き合ってる頃、ちょっとその事はなしたくらいだから、そのままだと思われてても不思議じゃない。
「へー、それで今は会社の人の弟さんといい感じなんだ?」
えっ?
「いや、そうじゃなくって、これは…えーーっと」
しどろもどろに否定してると最初の一品がやってきた。「ハイ、お待たせしました」
「きたきた」
「えへへ〜、これこれ。かな、どうぞ」
天ぷら盛り合わせだ。
うまそー。
でも天ぷら? 中華料理屋…だったよね?
とふと疑問に思ったが、箸が動くほうが早い。
「いただきま〜す」
揚げたての天ぷらのにおいごと、ぱくっと口へ放り込んだ。
「おいし〜。これ何?」
まず衣は当然ながらさっくさく。中のものはこりこりして…肉汁といってよいのか…それが口の中いっぱいに広がって…じゅわわーー…
なかなか噛み切れない?
「白肉天だよ〜」
「シロニク?」
「ミノミノ。焼肉でよく食べるじゃん? あれあれ」
あっきも食べながら説明してくれる。
「ミノー?」
私は焼肉の網にミノがのっかってる図を想像してみた。
炭火の上で汁が下に落ちてはじゅーじゅー焦げてくミノ。
あれはあれでうまいが、天ぷらにするとこんな味になるんだ。
ほぉ〜〜〜。
「こりこりしてるでしょ」
「うん。ミノの天ぷらなんて初めて食べた〜」
あっきはうんうん頷いて、
「前はさー中華って言うと麻婆とかエビチリとか頼んでたんだけどー最近はここへ来てこればっかりなんだー」
「うんうん、美味しい〜〜。ありがとっ」
「よかった〜。おやじメニューもたまにはいいでしょ。こっちは豚天ね」
あっきご満悦。
これ食べさせたかったのかな。
豚天の方も美味である。
中華料理屋さんのメニューでこんな…ご当地グルメってやつだろうか。
よく言われることだが、おっさん御用達のこういう店にこそ逸品が潜んでいるものだ。
「なあ、いけるやろ」
彼氏も満足げである。
「俺もこれここ来て初めて食うたんや」
「へーそうなんだ」
「広島じゃポピュラーなんやな。この前居酒屋にもあったで」
「ビールに合いそうですね」
「お。いける口? 飲んでもええよ」
いえいえ、一応仕事なんで。と首を振ると彼氏は笑った。
「最初は白肉て何や? 思うたけどな」
白肉。
ミノか。
これは何やら使えそうなメニューである。
男が好きそうなメニュー、いわゆるゲテモノ系。
それに男ってやっぱ揚げ物好きだからさ。
今度会長室で若手の子集めてプレゼンの前練習やるって言ってたからその時のつまみにどうだろうか。
ミノに天ぷら粉つけて揚げればいいんでしょ?
などと。
つい職業病だろうか。
頭が勝手に料理の手順をシミュレートするのだ。
フムフム…
くちゃくちゃ口を動かしつつ固まる私の前をあっきの手がよぎった。
「みっくん、携帯かして〜」
「ん」
すんごい早業で何やらいじくると、「もしも〜し、あたし・・」おなじみの八宝菜やレバニラも届いて彩り豊かなテーブルの上にスマホをかざした。「ランチなう〜」 次に隣の私に向け、「今日はかなも一緒デース」
なになに?
ビデオ通話か。
とっさににこっとする私。
ピースまでして。
慣れとは怖いものだ。
あっきは立ち上がると彼氏のそばに寄った。
「これから山口にいってきまーす。角島でいか買ってくるね♪」
と、ケータイの前で彼氏と頬寄せ合ってにっこり。
「やだ〜。向こうもランチだって〜〜」
ケータイから何やら音声が漏れる。
懐かしい松江訛りの言葉だ。
あっきは楽しそうにやりとりして、携帯を置いた。
どうやら相手は親らしい。
「あっき、なに〜? おばさんと?」
私は尋ねた。
「そうそう。お母さんスマホにしてさ〜。みっくんのと同じだからしょっちゅうやりとりしてるのー」
え、もうそんな仲なの…
「みっくんと一緒にいるとこ見せたらお母さんすんごい喜ぶんだよね〜」
なるほど。
彼氏かっこいいから…
落ち着いた感じだしおばさんも安心なのかな。
前彼のようにちょっぴりやんちゃ系とかじゃなく…
見ていて安心を覚える彼氏? フフ。
などとつい母親の立場で考える私である。
なんとなくわかる気がする。
安心というか得体の知れない不安を感じなくて済むというか…やっぱ男も見た目よね。
それに。
人前でいきなり携帯かざして。
なんて別に私だけじゃないじゃん。
彼氏も全然怒んないし。
ていうか楽しそう。
何この差…ブツブツ…。
誰にぶつけるでもない不満がフツフツと湧いてくるのである。
「俺も親父にこれ見せたんや。そしたら『ミノか。そういえば昔どこかで食った覚えがあるで』言い出してな。探してきとんねん。大阪の店らしいわ」
とスマホをいじりながら彼氏。
「へえ〜」
「気に入っとるみたいや。こないだもお袋連れて行ってきてん。その店じゃミノ天いうらしいけどな」
「そうなんだ〜」
ハイ、文句なし。
もうひと皿追加〜。
オシャレには程遠いが『きたなトラン』ほど薄汚れてもなく、実になんでもない普通の店だったが。
その後皿うどんやラーメンも追加し、私はとっても満足したのだった。
新レシピげっとぉ〜〜。